土地や建物のような不動産の取得方法として、通常であれば売買が挙げられますが、まれに亡くなった身内が生前に所有していた建物を相続によりそのまま引き継ぐことがあります。
こうした場合には相続人による遺産分割協議を経るのがふつうです。
遺産分割協議とはなにか
亡くなった人が生前に所有していた財産は、民法の規定にもとづき相続人のものとなります。
民法のなかではそれぞれの相続人の相続分なども決まっていますが、相続対象となる財産が不動産の場合には、相続人全員が共有した上で、それぞれの持分を登記するなどの複雑な権利関係が生じてしまいます。
こうした財産を共有者全員の同意なく勝手に処分してしまうと裁判で訴えられてしまう可能性があり、通常の管理でさえも怖くて手が出せないといった事態に陥りがちです。
また、実際に不動産会社を通じて売却処分をするとしても、共有財産の場合にはそのリスクから通常よりも売却価格が大幅に減額されてしまうことが多く、不動産会社のなかには取り扱いを拒否するケースもあります。
こうしたことから、かならずしも民法の規定を墨守するのではなく、それぞれの相続人同士の話し合いにより、遺産をどのように分け合うのかを決める会議、いわゆる「遺産分割協議」が行われることになります。
協議に期限はないが相続税の申告を見据える必要がある
遺産分割協議をするにあたって、特に法律上は期限の定めがありません。
そのため理屈としてはいつでも相続人全員が集まることができる時期に遺産分割協議を開けばよいのですが、いっぽうで相続税の申告期限にも注意が必要です。
法律上の特例などはあるものの、通常は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に所轄の税務署に申告書を提出しなければならないこととされています。
したがって、相続税の申告期限を見据えて早めに遺産分割協議の準備をしておくことが重要です。
準備といってもいろいろですが、たとえば、亡くなった人がどのような財産を所有していたのかを調べて財産目録をまとめる作業、戸籍謄本や除籍謄本などから法定相続人を特定する作業は、最低限でも必要となります。
なお、協議をした後に新たに相続する権利がある人が見つかった場合には、協議をやり直さなければならなくなってしまうので、心して準備をしなければなりません。
令和元年5月1日、 〇〇市〇〇町〇番地 日本太郎の死亡によって開始した相続の共同相続人である日本花子、日本一郎及び日本二郎は、本日、その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った。
相続財産のうち、下記の不動産は、日本一郎 (持分2分の1) 及び日本二郎 (持分2の1)が相続する。
この協議を証するため、本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、各自1通を保有するものとする。
令和元年7月1日
〇〇市〇〇町二丁目1番地 日本 花子 (印)
〇〇郡〇〇町〇〇12番地 日本 太郎 (印)
〇〇市〇〇町三丁目3番4号 日本 二郎 (印)
記
不動産
所在 〇〇市〇〇町一丁目
地番 23番
地目 宅地
地積 123・45平方メートル
所在 〇〇市〇〇町一丁目23番地
家屋番号 23番
種類 居宅
構造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階 30・00平方メートル
2階 20・00平方メートル
遺産分割協議書に書くべき事項とは
遺産分割協議は相続人全員が集まる話し合いの場であり、基本的に各人の同意があればどのような分割をしても可能です。
そして、こうした協議がすべて済んだら、後日の証拠として遺産分割協議書と呼ばれる書類を作成して、それぞれの相続人に一通ずつ持たせるのがふつうです。
遺産分割協議書の内容としては、被相続人の本籍・最後の住所・氏名を記載するとともに、相続人のうち誰がどのような遺産を取得したかがわかる明細を書き出し、末尾に協議年月日と相続人全員の書類捺印が入ります。
不動産の場合ですと、土地であれば所在・地積・地目、建物であれば所在・構造・階数・建築面積を入れて具体的な遺産の特定ができるようにしておきます。
この遺産分割協議書は、単に協議内容の備忘的な意味合いのほか、その後に続くさまざまな手続きに利用されることがありますので、大切に保管しておくことです。
これらは個人で作成することができますが、書き方がよくわからない場合には、公的な文書を作成するプロである弁護士・司法書士・行政書士といった有資格者に依頼をする方法もあります。
弁護士は法律関係の書類はすべて作成可能ですが、その分だけ報酬が高額ですので、不動産登記関係は司法書士に、自動車の名義変更などその他の役所に提出する書類は行政書士にと、文書の種類に応じて使い分けをするのも有効です。
遺産分割協議が不調に終わったときは
遺産分割の方法は民法の規定をそのまま踏襲する方法、遺産分割協議による方法のほかにも、裁判所の判決を求めて訴えを提起する方法もあれば、裁判官や調停委員をまじえた話し合いで解決する調停と呼ばれる方法もあります。
いずれにしても相続人間で意見の対立が生じており、円滑に遺産分割協議ができないのであれば、一度は弁護士などの法律相談を受けてみて、法的な観点からの客観的なアドバイスを得ておくことが望ましいといえます。
弁護士の法律相談は有料であることが多いですが、現在は昔とは違って報酬金額が自由化されています。
そのため、弁護士によっては初回無料で対応するところもありますし、1回30分5千円程度の時間制で対応しているところもあります。